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新大陸の文明に無いもの

旧世界の文明圏にあって、新世界でうまれなかったものには鉄、車などがある。その他、牛・馬・羊などの家畜、サトウキビ・コーヒーなどの作物、黒人奴隷はヨーロッパ人によって持ち込まれた。

 新大陸の現在のメキシコを中心としたアステカ文明や、現在のペルーを中心として栄えていたアンデス文明などの文明は、高度な社会組織・国家形態を形成していた。しかし、1492年にコロンブスアメリカ大陸に到達して、大航海時代が始まった頃には、当時ヨーロッパ文明のもとで一般化していた、牛・馬・羊という三種類の家畜とともに、鉄器・車輪・火薬などの人造物は存在しなかった。

インディオの農耕文明

 新大陸の先住民であるインディオは、トウモロコシジャガイモサツマイモ・落花生・南瓜(カボチャ)・数種の豆・トマト・トウガラシ・タバコなど、旧大陸には無い植物を栽培した。
(引用)しかし農具は、堀棒・踏み鋤・鍬の程度で、牛馬のような大型家畜を使用する犂類は知らなかった。一方灌漑の工事は精巧をきわめたが、家畜類は貧弱で、ヤーマ、アルパカ、ワナコのような駱駝科の動物と、七面鳥、鵞鳥、アジア系統の犬を飼育したに過ぎない。・・・・紡織、染色の技術は旧大陸のそれと変わらないが、土器をつくる場合、ろくろやうわぐすりを使用しなかった。金属器は、銅・青銅器をつくったが、を知らなかった。そのほか、ガラス、車、弦楽器、アーチ、円天井などはついに発明されなかった。<泉靖一『インカ帝国』1959 岩波新書 p.8>

ヨーロッパからもたらされたもの

 コロンブスの新大陸到達に始まり、まずスペイン人が西インド諸島に入植し、さらに南北アメリカ大陸の内陸に進出していくことによって、ヨーロッパ人の“文明”が持ち込まれることとなった。それは、牛・馬・羊などの家畜であり、鉄器・車などの道具、鉄砲・火薬などの武器であった。ラテンアメリカに入植したスペイン人やブラジルに入植したポルトガル人はサトウキビコーヒーなどを持ち込み、農園を経営するようになった。  インディオはこれらの農園での苛酷な労働によって急速に人口を減少させたが、彼らの人口減少のもう一つの原因はスペイン人が持ち込んだインフルエンザや天然痘、ペストと言った感染症によるものであった。またインディオ人口が減少したため、それに代わる労働力として導入されたのがアフリカからの黒人奴隷であった。
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書籍案内
泉靖一
『インカ帝国』
1959 岩波新書