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ダイヤモンド

古代インドで発見され、最も珍重され続けている宝石。18世紀にブラジル、19世紀にアフリカでも産出するようになり、世界に広がった。

 ダイヤモンドは5000年前、南インドのハイデラバード郊外にあるゴルコンダで発見され、17世紀頃まではインドが世界最大の産出国であった。しかし、インドのダイヤモンド産出は徐々に枯渇し、1725年にブラジルでダイヤモンドの鉱床が発見され、1866年にはボツワナや南アフリカで大鉱床が発見されると、ダイヤモンド産出国としてのインドの地位は低下し、現在では主要な産出国ではなくなっている。
 イギリスは1877年インド帝国を樹立し、インド植民地支配を完成させたが、そのヴィクトリア女王の冠を飾ったのは、コ・イ・ヌールと言われるインド産の巨大なダイヤモンドであった。それは、ムガル帝国皇帝が所持していたもので、複雑な経過でイギリス王家のものとなったのだが、それはイギリスのインド支配を象徴するものであった。、

南アフリカのダイヤモンド鉱の発見とイギリス帝国主義

 1867年5月、南アフリカのブール人の国家であったオレンジ自由国のグリンカ=ウェスト地方のキンバリーでダイヤモンド鉱が発見された。1870年、17歳でイギリスから南アフリカに渡ったセシル=ローズは、ダイヤモンド採掘を開始し、瞬く間に才覚で規模を拡大し、キンバリーのデヴィアス鉱山会社を買収、キンバリー随一のダイヤモンド鉱山経営者となった。
 このころは帝国主義国イギリスは、世界各地で領土拡張の動きを積極的に行っており、南アフリカでもセシル=ローズを支援してグリンカ=ウェストを併合し、さらに、1877年に北のトランスヴァール共和国も併合した。そのため、1880年から第一次ブール戦争が始まった。戦いはトランスヴァール軍が健闘し、独立を回復したが、その後もケープ植民地政府の首相セシル=ローズは帝国主義的領土拡張を強力に進めた。その欲望を刺激したのがキンバリーのダイヤモンド鉱山であった。
 1895年、セシル=ローズは謀略を用いてケープ植民地軍のトランスヴァール国境侵犯事件(ジェームソン侵入事件)を起こして非難され、失脚したが、1899年10月、本国の植民地相ジョゼフ=チェンバレンは全面的なトランスヴァール共和国攻撃に踏み切り、南アフリカ戦争(ブール戦争)に突入した。苦戦の末イギリスは1902年に戦争を終結させ、オレンジ川流域植民地としてイギリス帝国領に編入した。その後、1910年にケープ植民地・ナタール・トランスヴァール・オレンジの4州からなる南アフリカ連邦がイギリス帝国の自治領として発足した。
 セシル=ローズは南アフリカ戦争の前に失脚し、1902年の終戦の数ヶ月前に亡くなったが、彼が経営していたデヴィアス社はユダヤ系資本で経営され、南アフリカのダイヤモンド鉱山の経営だけでなく、ヨーロッパでのダイヤモンドの加工・販売を一手に取り扱う、最大のダイヤモンド業者として現在も君臨している。

現代インドのダイヤモンド加工業

 15世紀以来、世界のダイヤモンド取引を独占してきたのはユダヤ人商人だった。現在でも世界のダイヤモンド産業は、南アフリカ発祥でロンドンに本社を置くユダヤ系のデビアス社の統制下にあり、原石の買い付け、研磨加工はイスラエルとインドの企業によって行われている。研磨加工ではイスラエルは高品質、インドが中低級を扱うという棲み分けができている。
 インドのダイヤモンド加工業は、ITや医薬品とならび、国際競争力を持つ重要産業になっている。ダイヤモンド原石を輸入してカット・研磨して輸出するビジネスで、インドは圧倒的な地位を築いており、そのシェアは金額ベースで55%、数量ベースで92%に及んでいる。日本で流通するダイヤモンドの大半はインドで加工されたもので、東京の御徒町には多くのインド人宝石商が店舗を構えている。
 インドはダイヤモンド原石をUAE、ベルギー、ロシア、カナダ、アンゴラ、ボツワナ、ナミビアなどから輸入し、カット・研磨してアメリカ、日本、香港、ヨーロッパなどに輸出しているが、国内消費も多い。インドのダイヤモンド加工業が急成長したのは戦後のことで、1960年代にグジャラート州スーラトで始まり、ムンバイが近いこともあって急成長した。原石を安価な労賃で人海戦術で加工・研磨する労働を担ったのはジャイナ教徒だった。ジャイナ教徒は不殺生を厳格に守るベジタリアンで、虫を殺せないために農業には従事できなかったことから、宝石ビジネスに参入してきた。現在ではグジャラートでダイヤモンドのカットと研磨に従事している職人は400万人に及んでいる。2022年のウクライナ戦争では、制裁措置のためロシアからのダイヤモンド原石の輸入が滞り、ダイヤモンド加工業も打撃を受けたが、非正規労働者の解雇は多くなったものの、中低品質の加工ではインドの競合国は無いので、今後も成長が続くと予想されている。<近藤正規『インド――グローバル・サウスの超大国』2023 中公新書 p.101-103>