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ティルス

東地中海岸のフェニキア人の拠点となった都市の一つ。西地中海に植民市カルタゴを築いた。

 テュロスまたはティールとも表記。現在のレバノンの地中海岸に近い島に栄えた都市で、フェニキア人が建設し、地中海進出の拠点とされた。現在は地図帳ではスールとして記載されている。
 ティルスのフェニキア人がアフリカ北岸に建設した植民都市がカルタゴである。一時アッシリアに征服されたが、その後復興し地中海貿易で繁栄した。前332年にはエジプトに向かうマケドニアのアレクサンドロス大王に攻撃され、7ヶ月にわたって抵抗したことは有名。ヘレニズム時代のセレウコス朝シリアとローマ帝国時代にも貿易港として栄えた。636年にイスラーム勢力のアラブ人に破壊されて、繁栄が終わった。現在は遺跡として残るのみである。

十字軍とテュロス

 用語集ではティルス(ティール)はイスラーム時代にテュロスの繁栄は終わったと記されているが、アラブ側の歴史書には次のような記載がある。それは十字軍国家の一つイェルサレム王国の国王ボードワンが、ティロスを攻撃した1111年のことである。
(引用)かつてこのフェニキアの古代都市の王子カドモスは、故郷を去って音標文字(アルファベット)を地中海沿岸に広めたし、またその実妹ヨーロッパは、やがて自分の名をフランク(アラブでは十字軍をこう呼んだ)の大陸に与えることになる。そのティールの堂々たる城壁は今なお栄光の歴史を思い出させる。
 町は三方を海に囲まれ、アレキサンダー大王が建造した狭い中道だけで堅い大地と結ばれている。難攻不落の名声のもと、町は1111年、最近占領された地域からの多数の難民を収容していた。<アミン・マアフーフ『アラブの見た十字軍』リブロポート p.140>

Episode 十字軍、テュロスの奇策に苦しむ

 十字軍(フランク)はティロスの城壁を破壊するため移動やぐらを組み立て、恐るべき能力を持つ破壊槌で城壁を砕き始めた。進退窮まった守備側だったが、一人の男が碇のついた網で破壊槌を絡めてひっぱたのでやぐらが倒れ、この攻撃は失敗した。再びやぐらを組んで新しいもっと大きな破壊槌で城壁を怖そうとする十字軍に対して、今度は城内から、汚物でいっぱいの大壺がフランクめがけてぶちまけられた。十字軍兵士は身体に立ちこめる臭気に域もつまり、二度と破壊槌を操作することができなかった。さらに城内からは油やタールで火をついえた籠が投げ込まれ、そこに煮えたぎった油がふりまかれたため、やぐらは燃え上がり、兵士は逃げ出した。このティロスの抵抗は、アラブ側の十字軍に対する反撃の始まりを示す出来事の一つだった。<アミン・マアフーフ『アラブの見た十字軍』リブロポート p.141-2>
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ノートの参照
1章1節 オ.東地中海世界
書籍案内

アミン・マアルーフ
/牟田口義郎・新川雅子訳
『アラブが見た十字軍』
ちくま学芸文庫