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アメリカ=メキシコ戦争/米墨戦争

1846~48年、アメリカがメキシコの領土を奪った戦争。これによってカリフォルニア、ニューメキシコなどを獲得、アメリカ合衆国の領土が太平洋岸に達した。敗れたメキシコにとっては領土の約半分を失う結果となった。

 19世紀前半にアメリカ合衆国は領土の拡大を続け、メキシコの領土を侵犯するようになった。メキシコ領であったテキサスにはアメリカ人が入植して一方的にテキサス共和国の独立を宣言し、その支援を口実としたアメリカ合衆国(民主党のポーク大統領)はメキシコを挑発して領土を侵犯したと口実をもうけ、1846年、戦争をしかけた。これがアメリカ=メキシコ戦争(米墨戦争)である。戦争を望んだのは、西部・南部のプランター、大地主階級の膨張主義者であった。
 アメリカの陸軍はニューメキシコとカリフォルニアを制圧し、海軍は海兵隊をベラクルスに上陸させ、首都メキシコ=シティまで攻め込み、占領した。戦力に大きな差があったメキシコは敗北し、1848年の講和条約(グワダルペ=イダルゴ条約)でカリフォルニアニュー=メキシコはアメリカに格安で割譲され、テキサスとメキシコの国境はリオ=グランデ川とされた。こうしてメキシコの国土は建国時の約半分に減少した。 → 1848年革命
 19世紀前半のアメリカ合衆国のめざましい領土膨張は、同時に新たな対立を国内にもたらした。それは、新しく国土に加えられた地に州が建設されたとき、それを自由州とすべきか奴隷州とすべきか、という建国以来の黒人奴隷制問題が先鋭化していくと言うことであった。

Episode ペリーとリンカン

 このアメリカ=メキシコ戦争で、海軍のベラクルス上陸作戦を指揮したのが、5年後に日本に派遣され日本の開国を強要したペリー提督であった。また、多くのアメリカ国民は勝利に喝采を送り、国中が勝利で沸き返ったが、このようなやり方を「防衛と言いながら実は侵略で、憲法違反だ」と議会で指摘した人物がいた。この勇気ある下院議員が若き日のリンカンであった。そのため彼はアメリカ国民の人気を失ってしまった。<伊藤千尋『反米大陸』2007 集英社新書 p.48-49>

リンカンの戦争反対論

 アメリカ=メキシコ戦争(米墨戦争)の開戦に際して、民主党のポーク大統領は、「メキシコ自身が侵略者となり武装してわが国土に侵入し、わが市民の血を流すに至った」ことをその理由とした。リンカンは下院議員に当選したての38歳、ホイッグ党議員として大統領への質問に立ち、メキシコ軍の攻撃があった「地点(スポット)」がアメリカの国土であり、血を流したのがアメリカ国民であるという確証はあるか、と質問した。戦闘があった地点は、アメリカとメキシコの係争中の土地であり、血を流したのは市民でなく軍人だったという疑惑があった。リンカンの主張は、大統領がそれに明確に答えない限り、メキシコとの戦争は「これを始める必要がないものであって、大統領がこれを始めたのは憲法に反する」と主張した。その演説(48年1月12日)の一節には次のような言葉がある。
(引用)大統領に、十分に、公正に、率直に答えていただきたい。事実を上げて、議論ではなしに答えていただきたい。ワシントン(引用者注、初代大統領)の席に坐っているのだということを忘れずに、ワシントンが答えたであろうように答えていただきたい。国家に対し、また全能の神に対し、いい抜けは許されず、またできるものでもないのですから、大統領もいい抜けや曖昧な言をろうしないでいただきたい。<高木八束・斉藤光訳『リンカーン演説集』岩波文庫 p.28>
 アメリカ=メキシコ戦争でリンカンが問うたことは政権に対する単なる攻撃ではなく、「国策決定の根底に事実の歪曲、虚偽の介在は許すべからず」という良心の叫びであった。<『同上書』解説 p.158>
 リンカンの質問と意見はしかし、無視された。むしろ、正当な戦争にケチを付ける非愛国者だという評判が立ち、リンカンの基盤のイリノイ州でもその人気は急落、リンカンは次期選挙には出馬できなかった。
 現代の戦争においても、例えばアメリカのベトナム戦争、イラク戦争、日本の満州事変など、事実が曖昧のまま、あるいは隠されたまま、戦争に突入している。そして戦争だけでなく、様々な政治の場面でも為政者が「事実」をごまかし、あるいはねじまげて「議論」し、「大義」や「正論」をかざして反対論をおさえ、多数で物事を決めていくことがおこなわれている。・・・ところで遠い異国の地で日本の自衛隊が「戦闘」でも「衝突」でも、巻き込まれて発砲し、死者が出たとき、はたして「事実」を確認することができのでしょうか。170年前のアメリカと同じ事が起きないようにするためにも世界史を学び、リンカンの良心にを忘れないようにしたいと思います。(2016.10.29記)
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ノートの参照
第12章3節 ア.領土の拡大
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高木八束・斉藤光訳
『リンカーン演説集』
1957 岩波文庫