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カフカス地方/コーカサス地方

黒海とカスピ海の間に東西に延びるカフカス山脈沿いの地帯。18世紀以来ロシアの南下政策が及び、20世紀初めにソ連邦の一部を形成する。1991年のソ連崩壊後、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニアが独立。コーカサス山脈北側のロシア領でもチェチェンが分離独立を求めるなど、民族混在域であるため紛争が多発している。

 コーカサス地方ともいう。カフカス山脈の最高峰は5642mのエルブルース山。山脈の南側をザカフカース(ロシア語で「コーカサスの南」の意味)といい、そこにはグルジア(現在はジョージアと表記)、アルメニアアゼルバイジャンの三国がある。カフカス山脈北側は現在はロシア連邦に属するが、チェチェン人などの激しい独立運動が起こっている(チェチェン紛争)。
 カフカス地方の東部は18世紀にカージャール朝イランの支配を受けていたが、南下政策をとるロシアの圧力が強まり、19世紀前半の2度にわたるイラン=ロシア戦争の結果、1813年のゴレスターン条約ではグルジアとアゼルバイジャンが、さらに1828年トルコマンチャーイ条約ではアルメニアの大部分(東アルメニア)のロシアへの割譲を認めた。北カフカスではチェチェン人の抵抗が続いたが、1816~61年にわたるカフカス戦争でロシア軍に平定された。
 20世紀に入り、東端のアゼルバイジャンのカスピ海に面したバクーで油田が発見され、ソ連にとっても経済的にも重要さを増し、ソ連の独裁者スターリンはグルジアの出身であったので、特にカフカス地方を重視した。
 第二次世界大戦では、バクーの石油資源に目を付けたナチス=ドイツが、1941年6月、独ソ戦を開始、この地の支配を目指して進軍したが、スターリングラードの戦いで敗北して撤退した。

コーカサス地方の民族紛争

ソ連崩壊に伴うコーカサス地方の民族紛争(赤字が紛争地域)

 コーカサス山脈の北と南には、多くの民族が交錯し、州境も混在している。そのため民族対立が絶えなかったが、特に1991年にソ連の解体の後は、東ヨーロッパ地域と同じような民族紛争が表面化している。コーカサス山脈の南側のザカフカースでは、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの三国がそれぞれ独立したが、内部に民族問題を抱え、またコーカサス山脈北側のロシア連邦内でも、チェチェン紛争という民族紛争が起こっている。1980年代から2000年代にかけて、コーカサス地方で起こった民族紛争には次のようなものがある。
  • チェチェン紛争:ロシア連邦内のチェチェン共和国のチェチェン人独立派が1994年に連邦からの分離独立を求めて蜂起。一旦、ソ連軍に鎮圧されたが、1999年に再発した。独立派はイスラーム過激派と連携していると言われ、モスクワでの劇場爆破などの激しいテロ活動を展開したが、2009年頃までにプーチン政権によって押さえ込まれた。
  • グルジア紛争:ソ連解体によって独立したグルジア共和国の中で、グルジア人以外の民族の居住民の多いアブハジア地方と南オセチア地方で、それぞれ分離独立運動が起こった。ロシアは分離独立を支援してグルジア領内に侵攻し、2008年の南オセチア紛争ではグルジアとロシアの戦争状態となった。グルジアは日本での表記が2014年からジョージアに変更されている。
  • ナゴルノ=カラバフ紛争:同じくソ連から独立したアゼルバイジャンにおいて、隣国のアルメニア系住民の多いナゴルノ=カラバフ地方でアルメニアへの併合運動が起きたことをきっかけに、1988年~1994年、アゼルバイジャンとアルメニア両国軍が衝突、ロシア軍は前者を支援した。2020年9月27日はナゴルノ=カラバフ自治州がアゼルバイジャンからの独立を主張し軍事衝突が起こり68人が死傷した。アルメニアがナゴルノ=カラバフ自治州を直接支援、それに対してトルコがアゼルバイジャンへの全面支援を表明、戦闘の拡大が懸念された。

参考 映画『コーカサスの虜』

 1996年にロシアの映画作家セルゲイ・ボドロフが制作した映画に『コーカサスの虜』がある。話はトルストイの小説をもとにしているが、それを現代のチェチェン紛争に置き換え、二人のロシア兵(下士官と兵卒)がチェチェン側の捕虜となり、脱走の機会を探りながら村人たちと次第に溶け込んでいく(最後は厳しい現実が待ち構えているが)。ロシアの新兵の徴兵や、侵攻を正当化する軍の理屈などは現在のウクライナ戦争を思わせる。ロシア軍と戦う村人やゲリラたちも丁寧に描かれている。なによりもコーカサスの山々とけわしい山中で暮らすムスリムたちを映像としてみることができることが参考になる(もっとも実際にはチェチェンには入れなかったので、ジョージアのアブハジアで撮影したとのことだが)。
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DVD案内

セルゲイ・ボドロフ監督
『コーカサスの虜』
1996 ロシア映画