ヘレネス/ヘラス
古代ギリシア人たちが自らを英雄ヘレンの子孫と考えていたことから、自らをヘレネスと称し、その地をヘラスという。ギリシアとはローマ人による呼び方である。
ギリシア人は自らをヘレネス、またその地をヘラスと呼んでいた。それは、彼らが自らを英雄ヘレン Hellen の子孫であると信じたからであり、ヘレンの子や孫からドーリア人、アイオリス人、イオニア人、アカイア人というギリシア人の各部族の先祖に分かれた考えられていた。またヘレネスの居住するギリシア本土をヘラスという。
ヘラス・「希臘」の二字は中国音にて「ヘラス」。希臘人は己が国を呼ぶに「ヘラス」といへりといふ。
と書いている。ギリシャを漢字で希臘と書くのは、ヘラスの音訳であった。<會津八一『自註鹿鳴集』1969 新潮文庫 p.100>
現在、歴史上の用語として使われている「ヘレニズム」という言葉は、「ギリシア風の文化」の意味で現代になって造語されたものである。19世紀のヨーロッパで盛んになったギリシア愛護主義は「フィルヘレニズム」という。
なぜギリシアというか なお、現在もギリシアの公式名称は、英語表記では Hellenic Republic であり、ヘラスが使われている。古代ギリシア語でヘラスは、現代ギリシア語ではエラダという。これをギリシアというのは古代ローマ人(ラテン語)がそう呼んだからで、もとはギリシアの一地方を指す地名から来ているらしい。いまでもギリシア〇〇のことを「グレコ〇〇」というのもラテン語から来ている。日本には江戸時代にポルトガル人が使っていたギリシアと呼び名が入ってきてそのまま定着した。
注意 ヘレンとヘレネの違い ヘレン Hellen (へレーンまたはヘッレーンとも表記する)は、「デウカリオーンの子(または兄弟)。山のニンフのオルセーイエスを娶り、ドーロス、クスートス、アイオロスの父となった。彼らは歴史時代のドーリス人、イオーニア人(注、原文のまま)、アイオリス人の祖である。これはギリシア人の総称たる《ヘレーネス》Hellenes およびその三大部族の名の系譜的解釈である。」と説明されている。<高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』1960 p.258>
つまり、ギリシア神話に出てくる美女ヘレネ Helene とは別な神である。ヘレネスというギリシア人の自称が「美女ヘレネの子孫であるという意識に由来する」というのは誤り(というか勘違い)なので注意しよう(この項でもそう書いていたので訂正します)。ヘレネの方はスパルタ王の妃で、その美しさに魅せられたトロイアの王子パリスに掠奪され、トロイア戦争の結果、スパルタに戻ったとされる「世界で最も美しい」といわれた女性。しかし、ヘレネスのもととなったのは美女ヘレネではなく、英雄ヘレンの方である。
Episode ヘラスから希臘へ
いにしへ の ヘラス の くに の おほがみ をと、會津八一が詠んでいる。その自註に
あふぐ が ごとき くも の まはしら
ヘラス・「希臘」の二字は中国音にて「ヘラス」。希臘人は己が国を呼ぶに「ヘラス」といへりといふ。
と書いている。ギリシャを漢字で希臘と書くのは、ヘラスの音訳であった。<會津八一『自註鹿鳴集』1969 新潮文庫 p.100>
ヘレネス、ヘラスの意味
ヘレネス、ヘラスという言葉が使われたのはヘシオドスの『労働と日々』が最も古く、もともとは一地方の部族と彼らの住む地名であったらしいが、前7世紀ごろから全ギリシア人とその土地を指すようになった。それが後に、神話上の英雄ヘレンの系譜に結び付けられたと考えられる。ヘレネスとヘラスの語は、多くの都市国家ポリスに分かれて争うことになったギリシア人にとって、デルフォイの神託やオリンピアの祭典などとともに民族的同一性を意識させる上で重要な意味をもっていた。彼らは同胞をヘレネスと意識したのに対し、異民族をバルバロイ(聞き取れない言葉を話す人々の意味)といって区別した。現在、歴史上の用語として使われている「ヘレニズム」という言葉は、「ギリシア風の文化」の意味で現代になって造語されたものである。19世紀のヨーロッパで盛んになったギリシア愛護主義は「フィルヘレニズム」という。
なぜギリシアというか なお、現在もギリシアの公式名称は、英語表記では Hellenic Republic であり、ヘラスが使われている。古代ギリシア語でヘラスは、現代ギリシア語ではエラダという。これをギリシアというのは古代ローマ人(ラテン語)がそう呼んだからで、もとはギリシアの一地方を指す地名から来ているらしい。いまでもギリシア〇〇のことを「グレコ〇〇」というのもラテン語から来ている。日本には江戸時代にポルトガル人が使っていたギリシアと呼び名が入ってきてそのまま定着した。
注意 ヘレンとヘレネの違い ヘレン Hellen (へレーンまたはヘッレーンとも表記する)は、「デウカリオーンの子(または兄弟)。山のニンフのオルセーイエスを娶り、ドーロス、クスートス、アイオロスの父となった。彼らは歴史時代のドーリス人、イオーニア人(注、原文のまま)、アイオリス人の祖である。これはギリシア人の総称たる《ヘレーネス》Hellenes およびその三大部族の名の系譜的解釈である。」と説明されている。<高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』1960 p.258>
つまり、ギリシア神話に出てくる美女ヘレネ Helene とは別な神である。ヘレネスというギリシア人の自称が「美女ヘレネの子孫であるという意識に由来する」というのは誤り(というか勘違い)なので注意しよう(この項でもそう書いていたので訂正します)。ヘレネの方はスパルタ王の妃で、その美しさに魅せられたトロイアの王子パリスに掠奪され、トロイア戦争の結果、スパルタに戻ったとされる「世界で最も美しい」といわれた女性。しかし、ヘレネスのもととなったのは美女ヘレネではなく、英雄ヘレンの方である。