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預言者

ユダヤ教、イスラーム教などで、神の言葉を預かり、人々を導くとされた人々。イスラーム教ではムハンマドを最後の預言者とする。

 預言者とは神の言葉を預かり、人々に伝える者、の意味で、予言者(未来を予言する)とは違う。ヘブライ人の民族信仰であるユダヤ教ではヤハウェ神の預言者として、イザヤ、エレミヤ、エゼキエルなどが現れた。その中で最も重要な預言者は、出エジブトを率いて、途中、十戒を授けたというモーセであり、ユダヤ人にとって、ヤハウェ神への信仰を伝え、民族を苦難から救い、導いた預言者であった。
 預言者の存在が際立っているのはユダヤ教(そこから派生したキリスト教)であるが、同じ一神教であり、同じく西アジアに興ったイスラーム教においても預言者は重要な働きをしている。『コーラン(クルアーン)』によれば、アブラハムやモーセ、イエスはみな預言者であり、その最後にして最も優れた預言者として現れたのがムハンマドであるとしている。預言者は一神教の神と人間を結びつける中間的存在であり、多神教の宗教では存在しないのではないだろうか。

ユダヤ教の預言者

 預言者(ヘブライ語ではナヴィと言うことが多い)は「神の口」であり民に神意を告げる者である。カナンの地ではかれらはそれぞれ地方の各聖所に1人の師父と共に集団を形成し、特異な姿で音楽の助けを借り、神がかりの状態になって人々に神託を授けた。女預言者もいた。
 ユダヤ教の経典である『旧約聖書』には、イザヤ、エレミヤ、エゼキエル、ダニエルなどなどの預言書17巻がある。ユダヤ教はいわは「予言者の宗教」であり、ユダヤ人の歴史は預言者によって語られた歴史であると言える。これら預言書には預言者文学とも言われる、文学的な価値も認められている。
また預言者はその置かれた時代において、神の言を語る説教者であるが、同時に来たるべき時代について語る予告者でもある。彼らが神との霊的な交わりにおいて神の歴史に対する計画を示され、それを語ることは彼らの特権とも考えられる。……預言者はその意味において神の代言者であるとともに文字どおり「預言者」であったのである。彼らは時代を超えて歴史を洞察し、またそれについて語る力を神から与えられていた。<『聖書辞典』日本基督教団出版部 1961初版 p.95-170.832>

イスラーム教の預言者

 アラビア語でも預言者をナビというのは、ヘブライ語ナヴィからきているが、アラビア語のナビ情報を意味するナバが語源との見解もある。イスラーム教では、『コーラン(クルアーン)』によると、ムハンマドは、自らをノア、アブラハム、モーセイエスと同じく預言者としている。イスラーム教ではムハンマドは本当の預言者としては最後にして唯一の預言者であるとされている。
コーランによれば、人類は元来一つの共同体であったが、争いによって分裂してしまった。そこで神はおのおのの共同体にその中から選び出した預言者を使わして、人々の争いを裁決し、正しい道に導くために彼らに啓示して正しい信仰と行為軌範を伝えさせた。そのような預言者として、アダムを始めとして、ノア、アブラハム、イサク、ロト、ヨセフ、モーセ、ダビデ、ソロモン、ザカリヤ、ヨハネ、イエスなどの聖書的人物や、・・・など28人の名があげられている。これら一連の預言者のうち、ムハンマドが最後の預言者であり、しかも最も優れた預言者とされる。イスラムでは彼以後の預言者はいっさい認められない。<『イスラム事典』日本イスラム協会監修 1982初版 平凡社 p.393>
預言者のモスク メッカの聖モスクに次いで歴史的・宗教的に重要なモスクとして「預言者のモスク」がある。622年、ムハンマドはメッカの北の要衝ヤスリブを攻略し、そこに最初の信者の共同体ウンマを組織した。そのときその地を「預言者の町」を意味するメディナと呼び、住居に接してアッラーに祈りを捧げるお堂を建造した。最初は荒石、日乾煉瓦、ナツメヤシの幹や葉で作られた単純な礼拝堂に過ぎなかったが、以後、改築・再建をかさね、マムルーク朝やオスマン帝国の時代に修復され、後代のモスク建築のモデルとなった点で重要である。<『イスラム事典』p.394>
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