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国際刑事裁判所/ICC

1998年に設立が決定され、2002年に発足した、戦争犯罪や集団虐殺、人道に反した罪、さらに侵略の罪を犯した個人を裁く国際裁判所。2009年、ダルフール紛争でのジェノサイドに関してスーダンのバジル大統領を逮捕状を発行した。アメリカ、ロシア、中国は参加していない。

 国際刑事裁判所 The International Criminal Court 通称 ICC 戦争犯罪や集団虐殺、人道に反する罪を犯した個人を裁く常設の裁判所。1998年7月17日、ローマで開催された国連外交会議総会で採択された裁判所設置に関するローマ規定によって設立が決定し、60ヵ国以上の批准を経て2003年にオランダのハーグ(「国際法の街」と言われ国際司法裁判所もあるところ)に設置され、活動を開始している。国際刑事裁判所の裁判官は各国から選ばれており、日本人では齋賀富美子(2007~2009)、尾崎久仁子(2009~2019)が選出され、就任している。
 従来の旧ユーゴスラヴィアやルワンダ、カンボジアなどの個別の国際法廷とは異なり、常設であり、独立性が高い。EU諸国は全面的に賛同しているが、アメリカは自国の兵士が標的にされることを懸念して終始批判的で、クリントンは渋々署名したが、2002年5月、ブッシュ(子)は署名を撤回、ICCから脱退した。このようなアメリカは反国連、単独行動主義(ユニラテラリズム)と非難されている。ロシア・中国という大国も加盟していない。日本も長く未加盟であったが、2007年10月に105ヵ国目の加盟国となった。2009年3月には常設の国際裁判所ととしては初めて、現職の国家元首であるスーダン共和国のバシル大統領をダルフール紛争での集団殺害の責任者として逮捕命令を出し注目されている。
注意 ICJとICCの違い なお、国際司法裁判所(ICJ)は国際連合の司法機関で、国家間の紛争を裁く裁判所であり、個人を裁く裁判所であるICCはそれとは異なる機関である。同じハーグにあり、名称も似ているが、別な機関であるので注意しよう。

ジェノサイドと人道に対する罪

 1998年に締結された国際刑事裁判所設立条約(ローマ規程)では、集団殺害(ジェノサイド)、人道に対する罪、戦争犯罪は盛り込まれたが、「侵略の罪」については定義や管轄権をめぐって合意が得られず、条約批准後の検討会議で詰めることになった。2010年、ウガンダの首都カンパラでその再検討会議が開催され、条約非加盟国であるアメリカ、中国も参加し、侵略の定義および管轄権行使の手続きに関する改正が合意、ようやく成立した。
 集団殺害(ジェノサイド)については第二次世界大戦前から戦中に書けてのナチス=ドイツのユダヤ人大量殺害(ホロコースト)が興ったことを国際社会全体で反省し、その再発を防止するため1948年12月の国際連合第3回総会でジェノサイド条約が採択され、国際法として定められた。この時からジェノサイドという用語も一般化した。締約国はジェノサイドに対して処罰するため国内法で裁判を行うか、国際刑事裁判所で裁かれるという規定であったが、東西冷戦のきびしい国際関係の中で国際刑事裁判所を設置することが困難で、ようやく1998年の条約で設置が具体化した。そして、この裁判所で裁かれる犯罪の第一に集団殺害(ジェノサイド)があげられたのだった。
 「人道対する罪」も国際法の概念としては第二次世界大戦前には存在しなかったが、ニュルンベルク裁判極東国際軍事裁判所の審理において新たな法理念として提起され、戦争犯罪のひとつに加えられた。

「侵略の罪」

 争点は「侵略の定義」と「管轄権行使の手続き」(どこが侵略行為と認定するか)であった。国際連合憲章では、ある国が侵略行為を行ったかどうかを判断する権限は安全保障理事会に与えられている。安保理が一致して侵略と判断すれば、ICCは捜査に踏み出せるという点は各国に異論はないが、全会一致を前提とする常任理事国が対立して動けないときどうするか。ベルギー、ドイツなどと多くの途上国はICCの独立性を尊重し、捜査を認めるべきだと主張したのに対し、アメリカ、中国、イギリスなど安保理常任理事国は安保理の決議がなければICCは捜査には入れないとすべきだと主張した。討議の結果、6月11日に次のような内容(概略)で採決された。
  • 侵略の定義 「侵略犯罪」とは「国連憲章」の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。その「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるもので、1974年の「国際連合総会決議3314」(侵略の定義に関する決議)に一致して侵略の行為とみなすもの、とされた(細目省略)。
  • 管轄権の行使 侵略行為の認定は国際刑事裁判所又は国際連合安全保障理事会の決定により行うことができるが、国際刑事裁判所は、裁判所以外の機関による「侵略行為」の決定に影響されない。その行使は、締約国の自発的付託によるか、国連安保理の付託によるか、いずるかによる。
<朝日新聞 2010年5月28日記事、および Wikipedia 侵略犯罪の項>
 つまり、侵略の定義は1974年の国連決議をもとにして、ここで再度確認され、管轄権の行使に関しては「玉虫色」の規定となったと言うことができる。

ロシアのウクライナ侵攻

 2022年2月24日ロシア連邦プーチン大統領によるウクライナ侵攻が開始されると、その4日後の2月28日にに国際刑事裁判所(ICC)のカリム=カーン主任検察官は、戦争犯罪が起きている可能性があるとして捜査を始める方針を表明、3月2日に捜査を開始した。しかし、ロシアもウクライナも設置を決めたローマ条約を批准しておらず、不加盟国であった。ただしウクライナは2014年のロシアによる強制編入の際のクリミア半島での犯罪と人道に対する罪についての捜査権限をICCに与えていたので、カーン検察官は4月上旬、ロシア軍による残虐行為が行われた疑いのあるブチャ(キーウ北西の町で一般市民300人の死体が見つかっていた)を訪れ、戦争犯罪訴追に意欲を示した。ロシア軍による化学兵器の使用も疑われたが、戦闘中であるため現地には入れず、捜査は進展していない。<小林義久『国連安保理とウクライナ侵攻』2022 ちくま新書 p.52-62>
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