安全保障理事会
国際連合の主要機関で国際間の平和と安全の維持をはかる機関。アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国の5大国が常任理事国となり拒否権を持つ。非常任理事国は現在10カ国(2年ごとに総会で選出)。安保理決議は国連で唯一、法的拘束力を持つ。理事国の構成に関する改革案も出されているが、現在のところ進展していない。2022年、常任理事国の一つロシアがウクライナに侵攻したことで大きな曲がり角に来ている。
国際連合はその目的を国際連合憲章第1章第1条(目的)で「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること、並びに平和を破壊するに至る虞(おそれ)のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。」をあげ、「集団安全保障による平和の維持」を理念として掲げている。
また第2条(原則)の4項で「武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と規定し、武力行使の禁止を原則として掲げている。この集団安全保障の任務を遂行する国連の機関として設置されたのが安全保障理事会で、固定された常任理事国5カ国(P5)と加盟国から選出される非常任理事国から構成され、国際的な紛争の平和的解決に大きな役割を与えられている。
任務及び権限:(第6章~7章)
しかし、日本の常任理事国入りは現状においてもかなり無理があるようだ。その点に関しては常任理事国の「日本はなぜ常任理事国になれないか」の項を参照してください。
2月25日、安全保障理事会でアメリカが提出した、ロシアの行動を国連憲章や国際法違反であると非難し、ウクライナからの即時撤兵を求める決議案が審議された。決議の採択には常任理事国5カ国総てを含む9カ国以上の賛成が必要となる。ロシアが拒否権を行使することが想定されるが、それでも他の14カ国が賛成すれば大きな圧力になるとアメリカ代表は考えた。賛成討論、ロシアの反対討論、当事国として出席したウクライナ代表などが次々と発言。採決の結果は次の通りで否決された。(★は常任理事国)
しかし、このウクライナ戦争の帰趨が、ロシアの国連安保理での立場に何らかの影響を及ぼすことはありうるだろう。それが久々に巡ってきた国連安保理改革のチャンスであるかもしれない。<2024/11/2記>
また第2条(原則)の4項で「武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と規定し、武力行使の禁止を原則として掲げている。この集団安全保障の任務を遂行する国連の機関として設置されたのが安全保障理事会で、固定された常任理事国5カ国(P5)と加盟国から選出される非常任理事国から構成され、国際的な紛争の平和的解決に大きな役割を与えられている。
国連憲章の規定
安全保障理事会に関する国連憲章の規定を要約すると次のようになる。任務及び権限:(第6章~7章)
- 国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとする。
- 国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、次のいずれかの措置をとるか決定する。
〔非軍事的措置〕:第41条 兵力の使用を伴わない措置。経済関係などの中断並びに外交関係の断絶をなど。
〔軍事的措置〕:第42条 非軍事的措置では不十分であろうと認めた場合、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。(この規定が「国連軍」創設の根拠となっている)
- 安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。(中華民国は、1971年に中華人民共和国に交替。ソ連は1991年にロシア連邦が継承。)
- 総会は、地理的分配に特に妥当な考慮を払って、非常任理事国10カ国を選挙する。 非常任理事国の任期は2年。(非常任理事国は当初6ヵ国であったが、1966年から10カ国に拡大された。)
- 評決は、常任理事国は大国一致の原則にのっとり、5カ国全体の同意が必要(従って1ヵ国でも拒否すれば案件は成立しない拒否権を持つ)であり、非常任理事国を含む15ヵ国中の9票以上で可決される。
安保理決議は法的拘束力を持つ
安全保障理事会の決議、いわゆる安保理決議は、国連の機関の決議の仲で唯一、法的拘束力を持つ。総会、経済社会理事会、人権理事会などの国連機関は決議を採択することができるが、国連憲章で加盟国に履行の義務を負わせることができる、つまり法的拘束力があるのは安保理決議だけである。国連は本来、加盟国による集団安全保障にための国際組織であるので、侵略行為に対しては、安保理に経済制裁か武力制裁かのいずれかを発動する権限を与えた。それだけ重要な決議であるため、常任理事国に対しては全会一致、つまり一国でも反対であれば議決できないという拒否権が与えられた。<小林義久『国連安保理とウクライナ問題』2022 ちくま新書 など参照>機能していた安保理
国連と安保理は創設された1947年から、次々と課題を抱え込むこととなった。その主なものをとっても、1947~48年のインド=パキスタン戦争(第一次)では国連インド・パキスタン軍事監視団(UNMOGIP)、1948年のパレスチナ戦争(第一次中東戦争)では国連休戦監視機関(UNTSO)をそれぞれ安保理決議により非武装の停戦監視団として派遣しており、いずれも現在もなお任務を継続中だ。1950年の朝鮮戦争ではソ連が、国連の中華人民共和国の代表圏問題に抗議して安保理を欠席していたため、アメリカの提案した北朝鮮の侵略と断定することが採決され、国連軍が派遣された。ただこのときの国連軍は実態はアメリカ軍であったので実質的な国連軍とは言えない。これに懲りたソ連は、安保理に欠席せず、出席して拒否権を行使る戦術を採るようになった。PKO活動への重点移行
安保理が機能したのはこの頃までで、1950年代以降の東西冷戦ができあがってからは、アメリカとソ連による拒否権の応酬で、安保理は機能しなくなってしまった。それでも紛争が絶えなかったため、徐々に安保理の決議を経ない形での停戦監視や平和維持活動が必要となり、窮した国連は、強制行動を定めた国連憲章第7章と、紛争の平和的解決に関する国連憲章第6章に基づき、平和維持活動(PKO)部隊を編成するようになった。 1989年の冷戦終結後は、各地で民族紛争や内戦が勃発した。同時に安保理も機能しやすくなり、PKOの急増した。1989~2019の10年間で56のPKOが編成されている。日本のPKO活動への参加も冷戦後に本格化、1992年のPKO協力法が成立し、第二次国連アンゴラ監視団(UNAVEM②)に初めて三人の選挙監視要員を派遣、その後協力法は何度も改正され、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)にはじめて自衛隊員を派遣した。その後、東ティモールと南スーダンにPKOが派遣された。安保理改革
安全保障理事会の常任理事国5カ国が固定されており、しかもそれぞれが拒否権を持っていることは当初から問題と考えられていたが、中華民国から中華人民共和国への変化とソ連からロシアへの入れ替えはあったものの、枠組みそのものは動いていない。主な安保理改革をめざす動きには次のようなものがあった。- 1965年 1950~60年代 アジア・アフリカ諸国の加盟国が急増し、非常任理事国は6カ国が10カ国に増えた。
- 1993年 国連総会、安保理改革のための作業部会設置の決議が全会一致で可決される。日本とドイツの常任理事国入りが検討された。しかし、ロシアは日ロ平和条約の未締結、中国は歴史問題での不信を理由に難色を示した。
- 2003年 イラク戦争での国連の力不足を痛感したアナン事務総長が安保理改革のための委員会設置を提案。
- 2004年 常任理事国入りをめざす日本、ドイツ、インド、ブラジルの四カ国(G4)が共同声明。国連憲章改正案のAB2案を提案。国連創設60周年の2005年の合意をめざす。しかし、常任理事国・アフリカ諸国の反対で廃案に。
安保理改革の停滞
国連の安全保障理事会が、現在も第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国を常任理事国として、一ヵ国でも反対すれば決議案が通らないというあり方には、現在見直すべきではないか、という声が高まっている。特に、日本、ドイツ、インド、ブラジルの4ヵ国は常任理事会入りを目指し、共同歩調を取っているが、現在の常任理事国の同意を得られる道筋は立っていない。拒否権は2005年以来、ロシア・中国による発動件数が増加しており、特に最近はアメリカ対中国の対立が表面化している。2020年のコロナ禍の中での地域紛争に対する停戦呼びかけも、安保理が機能しないために進んでいないという現状がある。<朝日新聞 2020/9/23>しかし、日本の常任理事国入りは現状においてもかなり無理があるようだ。その点に関しては常任理事国の「日本はなぜ常任理事国になれないか」の項を参照してください。
2022年ロシアのウクライナ侵攻と安保理
2022年2月24日、ロシア連邦のプーチン大統領がウクライナ侵攻を行ったことは、世界に大きな衝撃を与えた。それは世界の安全保障に大きな責任と権限を持たされている安保理の常任理事国が、国連憲章、国際法、さらに1994年にアメリカ・イギリス・ウクライナなどと交わしていたブダペスト覚書を無視して行った主権国家に対する領土侵犯であったからであった。しかもロシアは核拡散防止条約(NPT)で核保有が認められている軍事大国でもある。2月25日、安全保障理事会でアメリカが提出した、ロシアの行動を国連憲章や国際法違反であると非難し、ウクライナからの即時撤兵を求める決議案が審議された。決議の採択には常任理事国5カ国総てを含む9カ国以上の賛成が必要となる。ロシアが拒否権を行使することが想定されるが、それでも他の14カ国が賛成すれば大きな圧力になるとアメリカ代表は考えた。賛成討論、ロシアの反対討論、当事国として出席したウクライナ代表などが次々と発言。採決の結果は次の通りで否決された。(★は常任理事国)
- 賛成 アメリカ★ イギリス★ フランス★ アルバニア ブラジル ガボン ガーナ アイルランド ケニア メキシコ、ノルウェー
- 反対 ロシア★
- 棄権 中国★ インド アラブ首長国連邦
参考 ロシアの常任理事国はどうなるか
ロシアの資格停止はあるのか 国際連合憲章の第5条には加盟国の権利および特権の停止、第6条には同じく除名の規定がある。いずれも安全保障理事会の勧告に基づいて総会がそれらを決定することができることになっている。この安保理の常任理事国の一つがみずから問題を起こした場合は、拒否権を行使すれば権利の停止や除名はできない仕組みになっている。とすれば、国連憲章の安保理規定を改めるしかないが、これはかなり困難が予想される。安保理改革に意欲を見せていた岸田首相が2022年3月14日に、安保理改革の一つとして常任理事国の特権を制限することに言及した。それにたいして中国の超立堅副報道局長が同日、反対の意向を示し「米国が違法にイラクに侵攻したときや旧ユーゴスラビアを爆撃したとき、日本はこのような表明をしたのか」と指摘した。<小林義久『国連安保理とウクライナ侵攻』2022/7 p.212>しかし、このウクライナ戦争の帰趨が、ロシアの国連安保理での立場に何らかの影響を及ぼすことはありうるだろう。それが久々に巡ってきた国連安保理改革のチャンスであるかもしれない。<2024/11/2記>