明の文化
中国の明時代の文化の特徴。生産力の向上による庶民の台頭を背景に、陽明学、南画、小説などが登場、また西洋文明との接触により実用的な科学技術が成長した。
中国の明代(1367年~1644年)の文化のポイントとされるのは次のような点である。
- 1.陽明学の成立
- 明は皇帝専制政治を支える理念として朱子学を採用したが、そのため朱子学は著しく体制化、形式化した。それを批判して実際活動を重視した知行合一を説いたのが王陽明の陽明学であった。
- 2.郷紳による文化
- 長江中流域の稲作農業の発展などの生産力の向上と貨幣経済の進展を背景にして生まれた郷紳といわれる富裕階級は、教養として書画を好み、彼らによって宋の文人画の系統を引く南画が隆盛した。
- 3.庶民文化の発展
- 特に文学では口語体の小説が流行し、元代に続いて庶民文化が栄えた。元代に生まれた『三国志演義』などの四大奇書が出版され、広く親しまれたのが明の時代であった。
- 4.実学の勃興と西洋科学技術の伝来
- 生産力の向上を背景に、実用的な科学技術に対する関心が高まり、キリスト教宣教師によって伝えられた西洋の科学技術が影響を与え、多くの技術書が生まれた。
明代の文化の具体例
- 思想:朱子学に代わる陽明学・王陽明、李贄(李卓吾)ら。キリスト教宣教師・フランシスコ=ザビエル、マテオ=リッチ利瑪竇の渡来。
- 芸術:美術では南画(南宗画)・董其昌の登場。他に北画(北宗画)。文学では小説の流行。四大奇書:
『三国志演義』 (羅貫中)・『水滸伝』 (元代に作られ明の羅貫中がまとめる)・『西遊記』 (呉承恩)・『金瓶梅』 (作者不詳)が書かれた。戯曲では『牡丹亭還魂記』(湯顕祖)。 - 科学技術:医学・薬学では李時珍『本草綱目』、農学では徐光啓『農政全書』、生産技術では宋応星『天工開物』が著される。
- 西洋技術の応用:マテオ=リッチ(利瑪竇)・アダム=シャール(湯若望、明末清初)の活躍。徐光啓『崇禎暦書』、世界地図『坤輿万国全図』作成、ユークリッド幾何学の翻訳『幾何原本』など。
明の文化の世界史的位置づけ
明代は「中華帝国」の時代であり、文化面でも漢文化が頂点に達した観があるが、その時期のヨーロッパではルネサンス、宗教改革、大航海時代にあたっており、この間に西欧文明が著しく転身を遂げ、いわゆる近代化の端緒をつかんだ時代であった。明は永楽帝時代の15世紀初めに鄭和の派遣など世界に開かれていたが、その後、中華思想に立って急速に鎖国体制をとったため西欧の動きと隔絶されてしまった。再び西欧との接触が始まるのは、16世紀末のマテオ=リッチに始まるイエズス会宣教師の布教活動によってであった。彼らによって様々な西洋科学技術が伝えられることになる。羅針盤や火薬はかつて宋時代に中国で生まれた技術が西欧に伝えられて進化したものであり、それらがここで逆輸入されたと言うことができる。次の清王朝も中華思想は継承され、他の世界は野蛮な遅れた世界と認識され続けたが、次第に西洋文化の優位が明らかになっていく。