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生活革命

17~18世紀のヨーロッパ(先進的にはイギリス)で、新大陸やインド、東南アジア、アフリカなどから綿織物、コーヒー、茶、砂糖などの物資がもたらされたことによって起こった、衣服、食事、住居、その他生活全般にわたる変化。

 17世紀のイギリスは、イギリス革命と一括される政治変革を進めながら、ジェントリと言われる中間層の経済力が高まっていった。並行して英蘭戦争英仏植民地戦争で海外発展をとげ、海外に多くの植民地を支配するようになった。特にイギリス東インド会社によるアジア貿易と、イギリスとアフリカ・新大陸を結ぶ三角貿易によって、イギリスには急速に新しい物資が商品としてもたらされるようになり、人々を生活の面から変化させていった。
 特にインドからもたらされた綿織物は急速に普及し、国内でもその生産が始まり、従来の毛織物中心のイギリス産業のあり方と共に、その服装を一変させた。また西インド諸島などからもたらされたタバココーヒー砂糖はイギリス人の嗜好品の大きな部分を占めることとなり、ロンドンなどの都市にはコーヒーハウスが出現し、あらたな情報交換や商取引の場となっていった。また、中国からもたらされたも急速に庶民に広がり、インドやスリランカでも栽培されるようになった。

商業革命から生活革命へ

 15世紀末に始まった大航海時代は、16世紀以降の近世をつうじて、世界の一体化を進め、またヨーロッパには商業革命をもたらした。しかし当初の商品は、胡椒や金銀、宝石に代表されるような貴重品であり、主として宮廷や貴族、大商人など豊かな層の消費生活を満足させるものであった。これを、ソースタイン=ウェブレンは有閑階級の衒示的消費と呼んでいる(『有閑階級の理論』1899)。衒示的とは一言で言えば財貨の無駄遣いである。17世紀に西インド諸島やインド、中国からイギリスに流入した商品も、当初は非常に高価な奢侈品であった。
(引用)例えば西インド諸島や新大陸から輸入された砂糖、タバコ、東インド・中国からもたらされた茶、コーヒー、キャラコ(綿織物)、その他陶磁器、ジャパンと言われた漆器など舶来の珍しいものは、貴族・商人階級はもとよりジェントルマンといわれた富裕な地主階級の衒示的消費の対象になった。しかしこうした商品に対する互いの衒示的購買意欲の高まりは、新しい中産階級の購買層への参加と共に、大量の輸入、つまり供給量の増加をもたらし、当該商品の価格下落をひき起こした。価格が下落すると、消費層はさらに拡大するが、同時にその品物はもはや新奇で高価な奢侈品ではなくなり、衒示的消費としての意味を失ってしまう。・・・こうして16世紀から18世紀にいたる時代には、商業革命によってもたらされたさまざまな珍奇な舶来品が、まず上流階級の間の衒示的消費を刺激して生活様式の国際化をもたらし、それが漸次社会の上層から中層に拡大して、いわゆる「生活革命」をひき起こしてゆくのである。<角山榮ほか『産業革命と民衆』生活の世界歴史10 河出文庫>
 なお同書に依れば、上流階級は新たな衒示的消費の対象をみつけなければならなくなり、それが18~19世紀に、絵画、美術工芸品のコレクション、ある場合は狩猟、馬車、第二夫人であった、と指摘している。また同書はイギリスの生活革命の具体的な諸相、服装や住居、食生活、コーヒーハウスなどを豊富に紹介しているので一読をお勧めする。
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書籍案内

角山榮/村岡健次/川北稔
『産業革命と民衆』
生活の世界歴史 10
2014 河出文庫版