瑞金（ずいきん）は中国東部の江西省の山間部にある。中国共産党が革命拠点を置き、初めて政治権力として中華ソヴィエト臨時政府をおいた場所である。
　中国共産党は、１９２７年の７月、国共分裂によって、中国国民政府（中国国民党）軍との激しい内戦に突入したが、数的に優り、外国資金の援助を受けた蔣介石率いる国民党軍に押され、その拠点を農村に移していった。その過程で各地に根拠地を造り、その周辺の農村で武力により地主を追放するなどで解放区（当初は辺区といわれた）を作っていった。その一つが毛沢東の築いた江西省の井崗山であり、同様の革命拠点＝解放区は続けて１９３０年３月までに大小わせて約１５にもなった。

革命拠点の建設

　その中で井崗山の毛沢東と朱徳に率いられた紅軍は、国民党軍の攻撃を避けながら、新たな根拠地を求め、１９２９年初めに井崗山から移動を開始し、江西省南部に移動し、１９３１年１１月に瑞金に「中華ソヴィエト共和国臨時政府」を樹立した。これは各地の農村政権の集合体であり、中華民国という国家の中に、それとは別な理念による独立国家が出現したことを意味する。この国家は、最初の共産党に指導された労働者・農民のが樹立した社会主義国家権力であった（ただし、アジア最初のではなかった。すでに１９２４年にモンゴル人民共和国が生まれている）。

共産党内の路線対立

　しかし当時はまだ毛沢東は主導権を確立していたわけではなく、党中央の主流派は依然としてソ連留学経験のある、コミンテンルン支持派であった。１９２８年から３１年にかけて毛沢東は「農村を武装して都市を包囲する」戦略を立て、井崗山以外の紅軍の根拠地を農村に建設することを進めた。しかし共産党主流派のソ連に留学したグループ（李立三ら）は、都市での蜂起を主とした全国武装蜂起を企てた。ところがその路線は１９３０年７月の「長沙ソヴィエト」樹立を除いていずれも失敗し、蔣介石の指揮する国民政府軍の囲剿（いそう）作戦といわれる攻勢によって各個撃破され、次第に後退せざるを得なかった。その間も毛沢東は農村根拠地の拡大に努め、１９３１年の満州事変の勃発という情勢の一層の緊迫を受け、この瑞金を首都とする中華ソヴィエト共和国の建国を宣言したのだった。

　１９３１年１１月７日、ロシア革命記念日に、その日を期して江西省瑞金で中国共産党の各地のソヴィエト政権の代表が集まり、第１回中華ソヴィエト代表大会が開催され、中華ソヴィエト共和国臨時政府の樹立を決定した。主席には毛沢東を選出した。副主席には項英と張国燾、軍事委員会主席に朱徳が選ばれた。
　瑞金を首都とするこの国は中華民国内の一独立政権として、各地の革命根拠地の人口を集め、人口１千万にすぎない小国であった（当時、全中国では約４億）にすぎず、支配領域も分散し、一定しなかったが、中国共産党が実現した国家建設として重要である。その後４年間存続したが、その間、共産党撲滅（囲剿作戦）を重視して抗日戦に本格的に取り組まなかった国民党軍と異なり、１９３２年４月には「対日戦争宣言」を行っている。すでに９月１８日の満州事変から日本の中国侵略が開始されていた。

瑞金を放棄、長征で延安に移る

　しかし、国際的な支援はコミンテルンとソ連であったが、それぞれ拠点が離れていたため、効率的な補給はなく、人員、物資、武器、弾薬の不足は明白であり、共産党撲滅に全力を挙げる蔣介石の国民党軍の包囲攻撃が厳しくなる中、１９３４年１０月に瑞金を放棄して「長征」（大西遷）に入った。これは実質的な中華ソヴィエト共和国の崩壊であったが、中国共産党は苦しい戦いを重ねながら、その途次の１９３５年５月、遵義会議で、一旦は政権の中枢から外されていた毛沢東が復活して党の主導権を握り、新たな体制をつくった。

日中戦争と第２次国共合作

　１９３５年１０月、陝西省呉起鎮に入り長征を終え、１９３７年からは延安を拠点としてソヴィエト政府を再建、国民党軍及び日本軍との戦いを続けた。そのような中、国内に国民党と共産党は内戦を停止して一致して日本軍に当たれ、という声が強まり、１９３６年１２月１２日、西安事件を契機として抗日民族統一戦線の機運が高まる中、中国共産党は１９３７年、ソヴィエト共和国を「中華民国特別区（陝甘寧辺区）政府」と改め、紅軍を国民革命軍第八路軍として中華民国・国民党に協力する態勢を整えた。おりしも１９３７年７月７日に日中戦争の勃発を受け、同１９３７年９月、中国共産党と中国国民党は第２次国共合作を成立させる。