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イオニア自然哲学

前6世紀、古典期ギリシアのイオニア地方で展開された初期の哲学。宇宙を構成している物質の根源(アルケー)を探求し、様々な思想が生まれた。

 紀元前6世紀、ギリシア文化がアーカイック期から古典期に移行するころ、小アジアのエーゲ海に面したミレトスを中心としたイオニア地方に、自然哲学がおこった。それは、この地が、ギリシア人の植民市として始まり、早くから交易の中心地として栄え、オリエントからもいろいろな情報がもたらされ、知識の交流が盛んだったためと考えられる。それ以後、前5世紀ごろまでに多くの哲学者が登場した。

自然哲学の意義

 イオニア地方の哲学者たちは、神話や宗教、道徳に束縛されずに自然そのものを観察し、あらゆる物事の根源にあるもの(アルケー)を探求し、それぞれ説を唱え、論争した。その中から、現代の科学にも通じるような自然観が生まれてきた。また、物質の根源を探求することから、認識論が生まれ、後のギリシア哲学の深化を準備した。

主な自然哲学者

 代表的人物としては、万物の根源は水であると説いたタレース、数を万物の根源としたピタゴラス、「万物は流転する」と言ったヘラクレイトス、また物質の根源を「無限定なもの(ト=アペイロン)」としたアナクシマンドロス、さらにアナクシメネスは「空気」を根源にあるものとした。またペリクレスの親友だったというアナクサゴラスは「太陽は灼熱した岩石にすぎない」と考えた。エンペドクレスはさらに宇宙は地・水・火・気の4元素からなると考え、さらにデモクリトスに至って原子論に達し、現代の物質観に近づいている。

自然哲学者の出身地

 イオニア地方の中心地のミレトス出身者は、タレス・アナクシマンドロス・アナクシメネスの三人。ほかは、ヘラクレイトスはイオニア地方のエフェソス、アナクサゴラスはクラゾメナイ、エンペドクレスはシチリア島、ピタゴラスはイオニア地方のサモス島(後に南イタリアに移住した)、デモクリトスはトラキア地方の出身者であり、すべてがイオニア地方ミレトスの出身というわけではない。

ギリシア哲学へのひろがり

 宇宙を成り立たせている物質の根源を探求したタレースからデモクリトスに至るイオニア自然哲学は、自然そのものから人間の存在へと次第にその関心を広げて行き、パルメニデスの存在論を経て、ポリス共和政全盛期に多くのソフィストを登場させることになる。このころからギリシア哲学という枠組みが生まれ、人間とは何か、いかに生きるべきか、さらに魂や神の問題を問うソクラテスプラトン、自然から国家に至るまでの人間認識を体系化したアリストテレスへと展開していく。

参考 ソクラテス以前の哲学

 アリストテレスは、ギリシア哲学の展開を、「ソクラテス以前」と「ソクラテス以後」に分けた。それ以来、哲学史の術語としてギリシア初期哲学者を総じて表す場合に「ソクラテス以前(Presocratic)」が用いられている。年代的にはほぼ前600年から前400年までに入るので、イオニア自然哲学とされる人びとがこの概念に含まれる。ただし、時期的区分と言うより、ソクラテスの影響を受けているかいないか、の違いという意味があるので、ソクラテスと同時代でもデモクリトスは含まれる。また自然哲学とは言えないが、ソフィストも含まれる。アリストテレスはこの「ソクラテス以前」の人びとを「自然学者(ピュシコイ)」や「自然について語る者(ピュシオロゴイ)」と言っており、彼らの関心はもっぱら自然(ピュシス)、宇宙、物質にあった。ソクラテス以後は端的に言えば、人間(魂や神も含めて)が対象になる。
・廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』の目次に従って分類すると次のようになる。高校の学習では便宜上、「イオニア自然哲学」に含めているが、正確にはこのような広がりがあることを知っておこう。
・哲学の先駆者…ヘシオドス、アルクマン、ペレギュデス
・ミレトス派…タレース、アナクシマンドロス、アナクシメネス
・クセノパネス
ピタゴラスとピュタゴラス派
ヘラクレイトス
・パルメニデスとエレア派…パルメニデス、ゼノン、メリッソス
・自然哲学の再興…エンペドクレス、アナクサゴラス、デモクリトス
・ソフィストたち…プロタゴラス
<廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』1997 講談社学術文庫>
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ノートの参照
第1章2節 コ.ギリシアの生活と文化
書籍案内

廣川洋一
『ソクラテス以前の哲学者』
1997 講談社学術文庫

ソクラテス以前の哲学者の著作断片を巻末に付してあり、彼らの言葉に直接触れることができる。