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バクトリア

前3~2世紀、アム川上流域、現在のアフガニスタン北部から北西インドを支配した国。アレクサンドロスの遠征に従って来たギリシア人が建てたヘレニズム諸国の一つ。

 前255年頃から前139年まで、現在のアフガニスタンの地域にあったギリシア人の国でヘレニズム諸国の一つ。前4世紀後半に東方遠征でアム川(現在のアムダリア川)流域を征服したアレクサンドロス大王がこの地に入植させたギリシア人の子孫が、前3世紀の中頃に中央アジアに建設した。大王の死後、セレウコス朝シリアの領土となったが、前255年ごろギリシア人総督に率いられて独立した。都はバクトラ

ギリシアとイランの融合

 アレクサンドロス大王の東方遠征で最も激しく抵抗したのがバクトリアであった。バクトリアにはイラン人の宗教であるゾロアスター教の伝統が強く残っていたので、アレクサンドロス大王はこの最後まで抵抗した地域を征服した後で、戦略的にも重視し、ギリシア人の総督を置き、いくつかのギリシア人都市を建設した。さらに、アレクサンドロスと将軍たちはイラン人貴族の女たちと結婚した。部将の一人セレウコスはバクトリア人の戦争捕虜であるアパマを選び、息子のアンティオコス1世をもうけた。<M=ボイス/山本由美子訳『ゾロアスター教』2010 講談社学術文庫 p.162>

ヘレニズム国家

 前2世紀にはメナンドロス王のもと最盛期となり、イラン高原のパルティアとは友好関係を保ち、マウリヤ朝の衰退に乗じてインドの西北まで侵入した。これによって、ヘレニズム文化がインドに及び、ガンダーラ美術が生まれることとなる。

トハラと大月氏

 その後、前139年にスキタイ系遊牧民トハラ(大夏)によって滅ぼされた。次いでイラン系の大月氏が匈奴に追われて東方から入り、この地を支配した。続いて大月氏の一族から有力となったクシャーナ族がこの地から北インドにかけてクシャーナ朝を建国した。

インド=ギリシア人

 バクトリアのギリシア人勢力は、前200年頃、マウリヤ朝の衰退に乗じて南下し、パンジャーブ地方を支配下においた。彼らはやがてバクトリアの本土に残った勢力とパンジャーブによった勢力に分裂したが、前2世紀なかばすぎにバクトリア本土が遊牧民族(大月氏)に奪われたため、本拠を完全にパンジャーブに移した。「当時のインドでギリシア人は、イオニアという民族名の訛ったヨーナ(ヤヴァナ)の名で呼ばれた。今日の歴史家は彼らをインド=ギリシア人と呼んでいる。」<世界各国史『南アジア史』2004 山川出版社 p.82>

バクトリアの滅亡

 バクトリアの滅亡については、高校生用世界史用語辞典では、山川版・実教出版版・三省堂版のいずれでも、「前139年にスキタイ系のトハラ人に滅ぼされた」とされている。ところが、山川出版社世界史小辞典(2004年改訂新版)では「これらのギリシア人諸都市は遊牧民族の大月氏の侵入を受けて滅亡し(前145年)、ヘレニズム文化は滅んだ」とされていて、混乱してしまう。同じく山川の新版『世界各国史・南アジア史』(2004)を見ると、「彼(メナンドロス王)の死後、王国は分裂・衰退し、前1世紀なかばごろ中央アジア方面から南下してきたシャカ(サカ)族に滅ぼされた」と説明されている。どうやら、バクトリアは一挙に滅亡したのではなく、バクトリア本土とインド北西部に分裂し、それぞれ別個に滅亡したらしい。やや古いが『京大東洋史辞典』では、「・・・デメトリオスがインド経略に専心する間に、エウクラティディスが王位を簒奪し、各地に僭主がおこって争い、ギリシア人の支配権はとみに衰えたが、西隣のパルティア、北方のスキタイ人の圧迫を受け、ついにトハラのため、前139年、バクトリア王国は滅ぼされた」となっている。シャカ(サカ)族というのは、パミール高原からカスピ海沿岸で活動していたイラン系の遊牧民で、ギリシアではスキタイの一部とされていたので、彼らがバクトリア滅亡にかかわったのは確かだろう。山川の旧版『世界各国史・インド史』(1960)の説明、「(匈奴に追われた月氏族が西トルキスタンに移動したことによって)その地方にいたイラン系の遊牧種族であったサカ(シャカ)族が南下して、前2世紀の後半にバクトリア本国を滅ぼしたが、さらに南下を続け、南アフガニスタンに定住した後、前1世紀になるとインダス川流域から西インドに向けて発展を始めた。・・・(イラン高原東北部の)パルティアもまたサカ族とほぼ同時に、東方に勢力を増大したから、サカおよびパルティアの両勢力は、やがて、本国を失って西北インドに君臨していたバクトリアのギリシア系諸王の勢力に代わっていった(後1世紀ごろ)」というのが最も正確なように思われるが、そうすると「トハラ人」は何なのだろうか。上記の書物だけからだとトハラ=サカともとれるが、いまのところ確証はない。(2011.10.30) → サカ族 トハラ