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シオニズム

19世紀末にヨーロッパのユダヤ人の中に高まってきたユダヤ人国家建設運動。現在のイスラエルの建国の理念であり、パレスチナ問題の底流にある思想。

 シオンはパレスチナの古名であり、ユダヤ人の故郷とされている。彼らがローマ時代に離散して、世界中に拡散して暮らしていたため、19世紀に高まった民族国家の建設を目指す運動(ナショナリズム)の高揚する中にあって、その基盤を持てないでいた。ユダヤ人はすでに人種的なアイデンティティはなくなっており、厳密にはユダヤ教徒という共通性のある民族という面が強くなっていたが、中世以来のヨーロッパのキリスト教世界においては、ユダヤ教から回収しない買った人々が、各地で迫害されていた。特に、ロシアにおける1881年以来のユダヤ人迫害(ポグロム)と、フランスのドレフュス事件にみられる反ユダヤ主義の流行に対し、ユダヤ人の中に、彼らに故郷に帰り祖国を再建しようという思想が芽生えてきた。

ヘルツルの覚醒

 ハンガリー生まれのユダヤ人ヘルツルは、ジャーナリストとしてパリに滞在中、ドレフュス事件に遭遇、フランス人が「ユダヤ人を殺せ」と怒号するのをみてショックを受け、ユダヤ人の国家建設の必要を痛感した。彼らは1897年スイスのバーゼルで第1回のシオニスト大会を開催、一つの政治勢力となった。ユダヤ系の財閥であるロスチャイルド家はシオニズムを財政的に援助した(パリ家のエドモン)。初期のシオニズムでは、彼らが国家を建設する場所は必ずしもパレスチナを想定してはおらず、アフリカの未開の地なども想定されていた。

パレスチナでの国家建設

 ところが、パレスチナの地は当時オスマン帝国の領土となっていたので、第一次世界大戦後ではオスマン帝国と戦ったイギリスがパレスチナにユダヤ人の国家を建設しようというシオニストを応援し、バルフォア宣言でユダヤ人に戦後の国家建設を約束した。その結果、多くのユダヤ人がヨーロッパからパレスチナの地に向かっていった。
 第二次世界大戦後、イギリス・アメリカの支援を受けて1948年にイスラエル共和国が成立し、シオニズムは目的を達したが、そこに居住していたアラブ民族はパレスチナ難民となり、ユダヤ人との間に激しい対立を巻き起こし、深刻なパレスチナ問題として現在も続いている。アラブのパレスチナ人、及び彼らを支援する人々からは、シオニズムとは他民族の生存権、生活圏を脅かす「侵略主義」と捉えられている。
 イスラエルは国際連合のパレスチナ分割案にしめされた領域に建国されたが、度重なる中東戦争でその支配領域を拡大している。特に1967年の第3次中東戦争で占領したヨルダン川西岸ガザ地区にはユダヤ人が次々と入植し、パレスチナ人との衝突が繰り返されている。

現在のシオニズム潮流

(引用)イスラエルの建国理念であるシオニズムは、父祖の地「エレツ・イスラエル」の聖地エルサレムにあるシオンの丘に帰還して、ユダヤ人の民族国家を樹立するユダヤナショナリズムの政治思想である。だが、
  1. 世俗的な政教分離のユダヤ民族=国民国家を追求する世俗(主義)的シオニズム(ヒロニーム)
  2. ユダヤ法(ハラハ)に則った宗教国家を追求する宗教シオニズム(ダティーム)
という二つの潮流が存在する。1.は、現在のイスラエル労働党に代表される左派(労働シオニズム、社会主義シオニズム)と右翼連合リクードに代表される右派(修正主義シオニズム)に大別される。2.は、1902年に「東方のユダヤ人」(ミズラヒーム)を意味するミズラヒ運動として始まり、「シオニズムの実行にあたっては、われらは元来東方人なので、奥州に馴染んだ文化を故国に持ち帰るべきではなく、ユダヤの東方主義である伝統的な正統派ユダヤ教を守る」としている。<森戸幸次『中東和平構想の現実―パレスチナに「二国家共存」は可能か』2011 平凡社新書 p.61>

大イスラエル主義

 宗教的シオニズムの一つで過激な入植活動で知られる「グシュ・エムニム」(信徒の集団)の指導者は、聖書の教えにもとづいてエルサレムはもちろん、イスラエル占領下のヨルダン川西岸の南部ヘブロンに住むことは当然の権利だと主張し、パレスチナ全域を含む「大イスラエル」を手に入れることはシオニストの夢を実現することであり、神がユダヤ人に約束した土地(エレツ・イスラエル)に入植することでメシア(救世主)の到来が早まると考えている。その考えでは、パレスチナ人はこの土地から出ていって、隣のヨルダン、シリアなどアラブ諸国に移るべきだということになる。<森戸幸次『同上書』 p.60>
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書籍案内

森戸幸次
『中東和平構想の現実
―パレスチナに「二国家共存」は可能か』
2011 平凡社新書

時事通信特派員として長く中東に滞在した筆者が、なぜ中東和平が進展しないかについて、ユダヤ人・パレスチナ人双方に取材した注目すべき書物。