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サトウキビ

イスラーム世界で砂糖の原料として栽培され、16世紀以降、新世界に広がり、さらに東南アジアの重要な農産物となる。

 砂糖の原料となるイネ科の作物で、原産地は東南アジア考えられている。インドに伝えられて前500年ごろからサトウキビを煮詰めて糖蜜を採るようになり、農作物として栽培されるようになった。現在も主として熱帯から亜熱帯地域で広く栽培されているが、世界史で最初に登場するのはイスラーム世界のサトウキビ栽培と砂糖の生産である。

エジプトのサトウキビ栽培

 特にエジプトでは8世紀頃からサトウキビ栽培が始まり、12世紀以降はアイユーブ朝マムルーク朝の政治的な安定のもとで商品作物として栽培が普及し、砂糖はカーリミー商人の手によって重要な輸出品となった。サトウキビはキプロス島・クレタ島・シチリア島・イベリア半島でも栽培されるようになった。シチリア島では9世紀のアグラブ朝によって征服されてからイスラーム教徒の手によって潅漑技術が導入され、サトウキビの他にそれまでヨーロッパで知られていなかった農作物が栽培されるようになった。

新大陸でのサトウキビ栽培

 サトウキビ栽培と製糖法は十字軍を通じてヨーロッパにもたらされたが、気候的に栽培が困難であったので、大航海時代になるとヨーロッパ人によって新大陸にもたらされるようになった。コロンブスが第2回の航海で西インド諸島に最初にサトウキビの苗木を持ち込んだという。16世紀以降はスペイン人によるメキシコのエンコミエンダ制農園や、ポルトガル人によるブラジルでの黒人奴隷労働によるプランテーション栽培が行われた。その後、イギリスやフランスも西インド諸島などでも黒人奴隷によるプランテーションでのサトウキビ栽培を始めた。増産された砂糖は三角貿易でヨーロッパに運ばれ、コーヒーや紅茶の爆発的に流行をもたらした。

キューバのサトウキビ栽培

 現在ではキューバが最大のサトウキビ栽培国である。16世紀中頃からスペイン人入植者によって始められたサトウキビ栽培は、キューバの気候に適したため急速に栽培面積を広げ、またそこでの過酷な労働によってインディオは死滅し、それに替わる労働力としてアフリカから黒人奴隷がもたらされた。キューバの黒人奴隷制は南北アメリカでは最も遅く、1880年に廃止されたが、その後は周辺諸島や中国からの出稼ぎ労働者の低賃金で生産された。島全体がサトウキビ畑とされたために食料は輸入に依存することとなり、「砂糖モノカルチャー」化の中で、利益はアメリカ資本と一部の富裕層に独占され、多くの労働者が貧困にあえぐ構造が出来上がった。
サトウキビ畑の労働 サトウキビ畑の労働は、収穫期の4~5ヶ月に限定されていた。そのため農業労働者は、収穫期は激しい労働が強いられるものの、1年の半分以上は収入がない状態であった。低賃金で蓄えもなく、仕事のない時期には乞食をして生き延びる人が多かった。そのような農業労働者の犠牲の上に生み出されたキューバの安価な砂糖は、世界市場の四分の一をしめるまでになった。
キューバ革命 1902年に独立したものの、実質的なアメリカの保護国ちなったキューバでは、アメリカに支援された独裁政治が続いた。キューバ社会の構造的貧困、対米従属、独裁政治を一挙に覆したのが、1959年のカストロに主導されたキューバ革命であった。カストロは1961年に社会主義宣言を行い、アメリカ資本によって経営されていたサトウキビ農園を接収した。それに対してアメリカはキューバ産砂糖の輸入制限を行い対立は深刻となって、キューバ危機が勃発した。アメリカのキューバ産砂糖の輸入制限は現在も続いている。

アジアでのサトウキビ栽培

 なお、アジアではジャワ島など東南アジアのオランダ領東インドでの強制栽培制度によって栽培され、オランダの富の源泉となった。中国を経て14世紀に琉球(沖縄)に伝えられ、1610年には奄美大島に伝来し、日本では甘蔗=カンシャといわれて栽培が始まる。江戸の庶民が砂糖を味わえるようになったのはようやく江戸中期、18世紀のことである。

サトウキビとテンサイ

 砂糖の原料となるサトウキビは、亜熱帯でしか生育しないので、その地域に植民地を持たないプロイセンでは、サトウキビ以外の原料から砂糖を作る研究を進め、1799年に家畜の餌として用いられていたビート(砂糖大根、甜菜)から砂糖を製造する方法を開発した。それが19世紀にはヨーロッパ諸国に広がった。現在はサトウキビによる砂糖(甘蔗糖)はキューバなどで生産され、ビートによる砂糖(甜菜糖)は大陸諸国で生産され、生産量は拮抗している。<以上、川北稔『砂糖の世界史』1996 岩波ジュニア新書などによる>
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第5章2節 イ.バグダードからカイロへ
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川北稔『砂糖の世界史』
1996 岩波ジュニア新書