戦略兵器削減交渉(第1次)/START・Ⅰ
1982~91年の米ソによる戦略兵器(核ミサイル)の削減をめざす交渉。START・Ⅰ。核弾頭と運搬手段の削減で両国が合意した。
START(スタート)は Strategic Arms Reduction Talks の略。70年代の戦略兵器制限交渉=SALT(ソルト、サルト)は Strategic Arms Limitation Talks が、Limitation(制限)を目的にしていたのに対し、 Reduction(削減)を目標とするレベルアップした交渉を意味していた。
1980年代前半の交渉は「新冷戦」の時期に当たり、アメリカのレーガン政権が戦略防衛構想(SDI)を打ち出し、ソ連はヨーロッパに向けて中距離核戦力(INF)を配備するなど緊張が高まっていたため交渉は難航した。
制限から削減へ
1970年代のSALTは、米ソ両国による戦略核兵器の上限に制限を設ける交渉であったのに対し、80~90年代のSTARTは、保有核弾頭と運搬手段を削減することが目標とされた。1980年代前半の交渉は「新冷戦」の時期に当たり、アメリカのレーガン政権が戦略防衛構想(SDI)を打ち出し、ソ連はヨーロッパに向けて中距離核戦力(INF)を配備するなど緊張が高まっていたため交渉は難航した。
交渉の進展
1985年にソ連にゴルバチョフ政権が生まれ、89年には東欧諸国が一斉に社会主義を放棄するという激変が起きたことによって一挙に交渉がすすみ、1991年7月31日、アメリカのブッシュ(父)とソ連のゴルバチョフによって合意に達し、モスクワにおいて調印された。これによって戦略核弾頭は6000個に規制され、運搬手段は1600基に削減されることとなった。削減率はアメリカが約27%、ソ連が36%であった。戦略兵器削減交渉(第2次)/START・Ⅱ
1991~93年、アメリカとロシアで交渉された核ミサイル削減の第二次交渉。2003年までに核弾頭の一定の削減すること合意した。その後、第三次交渉は難航しストップしている。
START・Ⅰに続き、冷戦終結後のアメリカとロシア連邦の戦略兵器の削減に関する交渉は1991年から交渉が始まり、93年1月に合意に達した。START(スタート)・Ⅱともいう。
アメリカのブッシュ(父)とロシアのエリツィンの両大統領によって署名され、2003年までに戦略核弾頭を3000~3500の間に削減することとなった。その後、START・Ⅲを継続することになっていたが、ブッシュ政権が弾道ミサイル防衛(BMD=Ballistic Missile Defense)構想を打ち上げたため、交渉はストップした。
そのオバマ政権が取り組んだ具体的な課題が、ロシアとの新START(戦略核兵器削減交渉)であった。2010年4月、米ロ首脳がプラハで署名し、両国の議会批准が12月までに終わり、新START(米ロ核軍縮条約)が発効することとなった。それによると、2017年までに、戦略核兵器(敵の首都を直接攻撃でき、その国の戦争遂行能力の壊滅を目的とした核兵器)として、核弾頭は双方とも上限1550発まで(2009年の現状はアメリカ5576発、ロシア3909発)、その運搬手段である大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機をそれぞれ800まで削減することとなる。
核不拡散条約(NPT)に定められた核保有国の核軍縮義務を多少なりとも果たしたという意義はあるものの「核兵器ゼロ」にはほど遠く、アメリカにとっては包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准の課題がある。また、戦略核にとどまらず戦術核(個々の戦場で使用される、射程の短いトマホーク巡航ミサイルなど)の削減も進めなければならない。
それでも核軍縮は一歩前進したと言うことができるが、議会の賛成票はわずか4票差で成立したことに見られるように、共和党主流派などの根強い反対意見がある。この核軍縮の前途は多難であることが予想される。<朝日新聞 2010年12月24日記事>
トランプ前大統領は新STARTを「悪い取引だ」と批判し、中国の参加を要求したことなどで延長交渉は難航していた。1月に、オバマ政権の「核なき世界」の継承を掲げて就任したバイデン大統領、プリンケン国務長官は、就任直後の最初の仕事のひとつとして1月26日にプーチン大統領と合意に達し、ロシア側も人権問題などでの関係悪化の中で「最近の米ロ関係の中でただ一つのよいニュースだ」と歓迎、2月3日に調印された。
課題はトランプも指摘していたとおり、中国その他の核保有国をこの枠組みに参加させることであるが、アメリカの5800発、ロシアの6375発に比べて中国は核弾頭数は320発なので比較にならないとして削減に応じるとは考えられない。このように新STARTによる核軍縮は当面、米ロの二国間協定にとどまるものと思われ、拡張は難航が予想される。<朝日新聞 2021/2/5 記事>
新STARTの延長は、それなりに意義はあるとしても、それに加えて2021年1月22日に発効した核兵器禁止条約の意義も大きくなることが考えられる。
→ AFPbb ニュース 2021/3/4
アメリカのブッシュ(父)とロシアのエリツィンの両大統領によって署名され、2003年までに戦略核弾頭を3000~3500の間に削減することとなった。その後、START・Ⅲを継続することになっていたが、ブッシュ政権が弾道ミサイル防衛(BMD=Ballistic Missile Defense)構想を打ち上げたため、交渉はストップした。
新START
2009年1月にアメリカ大統領に就任した民主党バラク=オバマは、4月5日、チェコのプラハで演説し、アメリカは核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として行動する道義的責任があることを明言し、「核なき世界」をめざすことを提唱した。このプラハ演説は世界的な共感を呼び、10月にはノーベル平和賞が与えられることになった。そのオバマ政権が取り組んだ具体的な課題が、ロシアとの新START(戦略核兵器削減交渉)であった。2010年4月、米ロ首脳がプラハで署名し、両国の議会批准が12月までに終わり、新START(米ロ核軍縮条約)が発効することとなった。それによると、2017年までに、戦略核兵器(敵の首都を直接攻撃でき、その国の戦争遂行能力の壊滅を目的とした核兵器)として、核弾頭は双方とも上限1550発まで(2009年の現状はアメリカ5576発、ロシア3909発)、その運搬手段である大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機をそれぞれ800まで削減することとなる。
核不拡散条約(NPT)に定められた核保有国の核軍縮義務を多少なりとも果たしたという意義はあるものの「核兵器ゼロ」にはほど遠く、アメリカにとっては包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准の課題がある。また、戦略核にとどまらず戦術核(個々の戦場で使用される、射程の短いトマホーク巡航ミサイルなど)の削減も進めなければならない。
それでも核軍縮は一歩前進したと言うことができるが、議会の賛成票はわずか4票差で成立したことに見られるように、共和党主流派などの根強い反対意見がある。この核軍縮の前途は多難であることが予想される。<朝日新聞 2010年12月24日記事>
新START延長交渉難航
新STARTは2021年2月に期限を迎えることとなっていたので、ロシアのプーチン大統領は2020年10月16日に新STARTを無条件で1年間延期することを提案した。しかしアメリカのトランプ政権はそれを拒否した。改めて、20日、ロシア側から1年間延長した場合、期間中にアメリカの提案している「核弾頭の規制」に応じる用意がある、と表明した。アメリカ側もこれを受けて直ちに検証可能な合意をまとめる協議に入る用意があると答えた。新STARTは延長され、核弾頭規制について話し合われる見通しとなった。<2020/10/22 ニュース各紙による>NewS 新START延長決定
中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年8月に失効したため、アメリカとロシアの間に残る唯一の核軍縮条約となっている新STARTであるが、トランプ政権の下で一時は延長されないのではないかと危ぶまれていたが、米ロ両国が期限切れ直前の2021年2月3日、2026年2月まで、5年間延長することで合意が成立した。トランプ前大統領は新STARTを「悪い取引だ」と批判し、中国の参加を要求したことなどで延長交渉は難航していた。1月に、オバマ政権の「核なき世界」の継承を掲げて就任したバイデン大統領、プリンケン国務長官は、就任直後の最初の仕事のひとつとして1月26日にプーチン大統領と合意に達し、ロシア側も人権問題などでの関係悪化の中で「最近の米ロ関係の中でただ一つのよいニュースだ」と歓迎、2月3日に調印された。
課題はトランプも指摘していたとおり、中国その他の核保有国をこの枠組みに参加させることであるが、アメリカの5800発、ロシアの6375発に比べて中国は核弾頭数は320発なので比較にならないとして削減に応じるとは考えられない。このように新STARTによる核軍縮は当面、米ロの二国間協定にとどまるものと思われ、拡張は難航が予想される。<朝日新聞 2021/2/5 記事>
新STARTの延長は、それなりに意義はあるとしても、それに加えて2021年1月22日に発効した核兵器禁止条約の意義も大きくなることが考えられる。
→ AFPbb ニュース 2021/3/4